民事信託を活用した事業承継のための信託のプロセス その4


ブログの更新が滞っておりましたが、再開して引き続き上場企業オーナーの事業承継に民事信託を活用する際の実務のポイントについて連載しています。
今回はその第4回目。

プロセス4 オーナーの全資産の把握
未上場企業のオーナーが所有する自社株式について信託を活用して、自社株式の管理と承継を行っていくことを決定したとき、そのオーナーの自社株式以外の財産も把握することが必要です。
後継者に自社株式を承継する目的であって、下記の3つのパターンの信託では、注意が必要です。
①委託者であるオーナーの相続が発生するまで、そのオーナーが受益者であり相続発生時に後継者1人のみが受益者となる信託
②信託開始時に後継者が受益者となる信託(信託設定時に後継者は贈与税を負担することが必要)
③信託期間中に信託受益権をオーナーから後継者へと贈与し、受益者を変更する信託
上記はいずれも後継者に自社株式を集中することができ、委託者である企業オーナーの後継者への自社株を承継するという目的を実現することができます。しかし本信託を取組むことにより、後継者以外の他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高まり、信託を検討する際には、必ず企業オーナーの全財産を把握することが必要です。
現時点では、遺留分を侵害する状況ではなくても、将来、株価が大きく上昇することになれば、相続時に相続財産に占める自社株式の割合が高くなり、後継者が他の相続人の遺留分を侵害することにもなります。
信託は、委託者の目的を実現する強力な方法ですが、それ故に問題を生じさせる可能性もあります。導入時に、企業オーナーの全資産を把握し、後継者以外の遺留分を侵害することの可能性が高い場合には、他の方法もあわせて検討していきます。信託の設定を原因として将来、企業オーナーの家族に争いを生じさせる原因を作るようなことがあってはいけません。
生命保険の活用は上記のような遺留分侵害への対策になり、有効な方法の一つです。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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