民事信託を活用した事業承継のための信託のプロセス その6

信託財産が株式の場合の議決権の行使【2】

前回は、信託財産が株式の場合、多くの信託では「議決権行使の指図者」の指図に従って受託者が議決権行使を行っていることを書きました。

事業承継において活用される信託において、「議決権行使の指図者」は誰が担うのでしょうか?

委託者が高齢となり、委託者自身の意思能力が減退することに備えて信託を利用する場合、議決権行使の指図者は、高齢者を指定します。委託者は、自身の相続が発生するまで株式の配当を得る権利を引き続き有しながら、議決権の行使については、後継者に任せる仕組みです。議決権の行使は株主である受託者が行うため、指図者の指図が信託目的と整合しているかについて受託者のチェック機能を効かせることができます。

一方、後継者が若いものの、将来の後継者に早めに株式の財産権を移しておきたいと考える場合、委託者が議決権後者の指図者となります。配当は後継者が得るものの、議決権の行使は引き続き委託者が行っていきます。このように委託者を議決権行使の指図者とする信託では、後継者を受益者とするケースが多く、計画的な資産の承継を行っていくことの方法として活用されます。ただし、信託を設定した際に受益者が委託者と異なる信託では、受益者に贈与税の課税がありますので、税理士に相談しながら準備を進めていくことが必須です。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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