vol.9 『受託者は個人か?法人か?』

民事信託の設定において、受託者の選定は最重要ポイントです。信託目的を実現するために誰を受託者とするのがよいか?適任の受託者選びはまさに民事信託の肝です。

個人を受託者とする場合、個人が亡くなる又は突然の事故等で無能力化することのリスクを指摘する方は多いようです。法人を受託者にした方が、受託者が不存在になることなく安定的であると。受託者が不存在となっても裁判所の介入などで受託者を選定することは信託法上可能ですが、常時発生する信託事務を行う者が当面いなくなり、財産管理は滞ります。後継の受託者選びの難航を避けるために、法人受託者としておけば安定的です。

一方、法人受託者としていても、信託事務を取り仕切る者が特定の個人の場合、その特定の個人が不存在となれば、受託者は存在し続けるも信託事務の執行に問題が生じます。

個人を受託者とする場合、その個人が不存在または無能力化することをふまえて、後継の受託者まで選定し、その者を信託契約に定めておけば、突然の受託者不存在となることへの備えはできます(もちろん両者ともいなくなることもあるので万全ではありませんが)。

また、信託事務を取り仕切る者が、行うべき信託事務のマニュアルを作成しておけば、個人受託者、法人受託者にかかわらず、当初信託事務を執行していた以外の者が信託事務を執り行うことができるようになります。

専門的な能力を必要とする信託事務なら、信託設定当初より、外部の専門家に信託事務を委託することとして、それ以外の信託事務についてマニュアル化しておくとよいでしょう。

信託事務マニュアルは、受託者の個人・法人を問わず必要なものと考えます。民事信託は専門家でない委託者の家族等が信託事務を行う信託です。信託の仕組み作りを行う専門家が信託設定以降の受託者の事務のことまで配慮して、仕組み作りを検討することが必須です。

しかし、世の中には、信託事務を実際に行ったことのある方は少ないので、受託者の事務について、書籍をあたるか経験者の支援を受けることが求められます。

民事信託の書籍も増え、信託開始以降の受託者の信託事務について説明する書籍も出版されています。

民事信託を有効に活用するためにも、そのような受託者目線で信託の仕組みを検討することが必要と考えます。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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