vol.11『民事信託を活用した事業承継のための信託のプロセス』

民事信託は、信託を業とする者でない者が受託者となって信託財産の管理・運用を行う財産管理の制度です。最近では、高齢者の財産管理にその活用が増え、ネットなどの情報でもその事例を紹介するものが多くなってきています。

筆者は、信託会社に勤務していたときから、未上場企業のオーナーの事業承継に信託を活用する業務を経験してきました。ここ数年、民事信託を支援する立場となりその実務を進めていくうえで注意していることを今後何回かにわたってプロセスごとに記していきたいと考えています。

プロセス1:現経営者の全財産を把握する

相続対策の提案と同様、事業承継における信託活用を検討する場合も、まず現経営者が保有する全ての財産を把握することが必要です。事業承継は、適切な後継者に議決権を集中することを目指すことで将来の経営を安定させることにつながると筆者は考えています。しかし、後継者に議決権を集中する仕組みをつくることで、相続税の納税負担の問題や他の相続人の遺留分の問題を生じさせるかもしれません。そのため、現経営者の全財産を把握することから実務がスタートします。

依頼者(現経営者)は、信託検討の依頼者ですが、保有財産の全てを開示することには大きな抵抗感があります。そのため、信託の仕組みを検討する者は、まず現経営者と信頼関係を築くことを心掛け、任された業務を遂行するために必要な情報として現経営者の全財産の把握することが欠かせないことを理解してもらい、開示してもらえるよう努めなければなりません。全財産を把握しないままに信託の仕組みを作りそれを導入することは可能ですが、それは将来、遺留分侵害の問題など他の相続人と揉め事を引き起こす原因を作り出すことにつながります。将来の揉め事をつくる信託を設計することは、実務家としてまず避けなければならないことと心掛けることが必要です。

実務における注意点

1.依頼者の全ての財産を把握することが様々な問題を回避することにつながる

2.依頼者が全てを開示してくれるよう信頼関係の構築に努める

3.上記の注意点を常に認識し、妥協せず業務を進めていく

次回以降、プロセスを進めながら、事業承継における信託の活用について実務的な注意点を記していきたいと思っています。ご期待ください。

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新刊のご紹介

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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