vol.5 『銀行では受託者口座を開設できない?』

信託は、委託者の財産を受託者に移転して、ce66ce1c15972646b666f633d2dab4d1_s受託者がその財産(信託財産)の管理を行います。委託者と受託者の間で信託契約を交わしても、信託財産が委託者より受託者に移転しなければ、受託者による財産管理は行えず、信託は成り立ちません。

信託法第23条(*)に、信託財産に対する倒産隔離の定めがありますが、財産が受託者に移転していなければ、信託財産とはならず倒産隔離もされません。
例えば財産が土地や建物の場合、信託契約を締結したら、受託者はその財産の信託登記を行わなければなりません。信託登記が済んでいなければ、信託を設定したつもりでも、財産は受託者に移転しておらず、引き続き委託者の所有のままです。ほとんど起こりえないレアなケースですが、もし委託者が破産したら、信託財産となっていない財産は倒産隔離されません。

民事信託は、家族等が受託者となる信託です。委託者が家族を信頼して、家族等の受託者に財産管理を任せる信託が民事信託です。受託者に対する委託者の信頼に基づいて設定された信託ゆえに、民事信託は委託者にも安心感があります。
私は、民事信託の土台は家族への信頼感と思っています。その一方、信頼により設定された信託でも、信託である以上、形式基準は満たさなければならないと、私は考えています。
民事信託を支援する実務家として、欠いてはならない実務を確実に行うことが必要と考えるのです。

信託財産が金銭の場合、家族等の受託者は、銀行に受託者口座を開設することが必要です。
私は、昨年、信託会社を辞め独立し、民事信託を支援するようになりました。そこでわかったことは、多くの民事信託では、金銭は受託者口座で管理されていないということです。
確かに、委託者や家族等の受託者が破産するようなケースはレアで、心配する必要はないと思います。しかし、信託として財産管理の仕組みを実行している以上、信託財産として、委託者のものでも受託者のものでもない財産として、信託財産を隔離して管理する必要があると考えるのです。
さらに調査してわかったことは、銀行等の金融機関の対応です。現状では、受託者口座の開設を速やかに対応してもらえる銀行等が少ないようです。
民事信託を支援する専門家どうしの話で、○○銀行は受託者口座を開設してくれると聞き、調べてみると、その口座は厳密な意味で受託者口座ではなく、いわゆる屋号口座であるということがわかりました。屋号口座について銀行内での取り扱いを正しく理解されないまま、受託者口座が開設できるという情報が広がり、民事信託の口座開設なら○○銀行という情報が流れていることもわかりました。

受託者口座が開設できない現状では、やはり民事信託の普及は難しいのか?と考える方が多いかと思います。しかし、そのように悲観する必要はありません。受託者口座として、民事信託の広がりを支援する信用金庫、銀行も出てきています。
実際に、うかがって話しを聞いてみたところ、屋号口座ではなく正に信託口座を開設しているとのことでした。システム的にも対応しており、安心して利用できる口座でした。
お話しをうかがった方に、『民事信託で受託者口座を開設したいと取引のある銀行に相談に行った際、それは難しいと言われたら、○○信用金庫では対応していますよと言ってください』との言葉をうかがったとき、私は、喜びとともに民事信託でも正当な信託財産の管理の普及に努めていこうと思いを強くしたところでした。

* (信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)
第23条 第一項 信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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