vol.6 『民事信託の受託者(1)』

e528beb19e925056033da65eaa428c63_s民事信託における一番の課題は受託者の選定です。信託目的の達成にむけて信託財産の管理、運用を信託期間中ずっと適正に行える者(社)が、委託者の近くにいるのか? 結構ハードルの高い問題です。

仮に適任の受託者が身内にいたとしても、人は突然亡くなることもあります。いろいろと検討してせっかく始めた民事信託が、受託者が亡くなることにより終了させなければならない事態も生じます。もう一人その後を継ぐ人がいればその人が後継受託者となる、又は法人を設立してその法人が受託者となることなどアイデアはありますが、コストや信託事務を担う人々の倫理観なども問題となり、受託者の選定はクリアすべき課題がたくさんあります。
委託者とそのまわりの人々の状況をふまえて、信託の制度設計者はいろいろなアイデアと人材を繰り出し受託者を選定していく必要があります。

すでに取り組まれている民事信託では、やはり委託者の子供たちが受託者となることが多いようですが、信託を望む人に子供がいないケースもあります。そしてそういった方ほど信託による財産管理のニーズが強くあります。
高齢となった委託者の子供が、身体的又は精神的な障害があり、その子供自身で財産管理を行うことができない場合も、信託による財産管理の必要性があります。
民事信託の相談では、このような悩みを持った方々からの相談も多く、民事信託の実務家として何とかこの悩みを解消したいと思うものの、残念ながら民事信託の実現が不可能ということもあります。

身内が少ない委託者や自身で財産管理が難しい方の信託は、信託銀行や信託会社などの業者による信託(以下、商事信託と言います。)が相応しいのですが、商事信託の場合、現状では受託基準があり、全ての方のニーズに応えることができません。
しかし、民事信託の実務家として、商事信託の受託者が、信託を希望する方の信託を受託してくれることができないか、その方といっしょに信託会社や信託銀行に相談しにいくことは大切であり、是非実践していただきたいことと考えています。
適任の受託者が一人いて信託を開始することができても、長く信託制度を維持したい場合、ときには後継の受託者として商事信託を指定するというアイデアも、実現性は低いかもしれませんが、商事信託側に確認する価値はあります。民事信託、商事信託に関わらず日頃より信託にかかわる方々との情報交換が必要です。

信託の制度を必要とする人は、今後どんどん増えていきます。実務を担う者同士がよりより制度の実現にむけ連携することで、日本の信託の裾野が広がっていけばと考えています。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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