vol.7 『民事信託の受託者(2)』

f7e0189d8cc865a04650fcbd7678c86a_s信託法第2条第1項には、「信託とは、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的達成のために必要な行為をすべきもの」と定められています(下線は筆者が強調のためにつけました)。特定の者とは、受託者のことを指しており、その受託者が、委託者の定めた目的の達成にむけて財産管理等をする制度が、信託だと信託法で定めています。

一方、信託業法第2条第1項では、「信託業」とは、信託の引受けを行う営業をいう」(下線筆者)と定めています。信託業は、内閣総理大臣の免許又は内閣総理大臣の登録を受けた者しか行うことができません。そして、一般的に信託業を行う者が引受ける信託を商事信託、信託業者でない者が、営業としてではなく、委託者の目的達成のために引受ける信託が、民事信託と言われています。

民事信託では、免許も登録もない者が行う信託のため、当局が、受託者を定期的に検査する仕組みがありません。そのため、受託者任せの財産管理となり、長きにわたり受託者の崇高な使命感によるところが大きくなります。

そもそも、高齢となっていくことで、自身で財産管理が難しくなる父や母の財産を、子供などの家族が管理することとして使用される民事信託では、商事信託のような定期的なチェックや監視が必要ないのかもしれません。しかし、制度を設計するときに、将来、受託者が監視されなくても安定的に受託者としての義務を果たしていくことができる仕組みの検討は、民事信託の設定を支援する者として欠いてはいけないことと思っています。

民事信託では、主に信託契約の締結による方法が多いと思いますが、信託契約締結時には、委託者である父や母の意識はしっかりしています。なぜ、父や母が信託を使って財産管理を家族に任せるのか、その目的を明確にすることが大切です。そして、目的達成のための財産管理は、どのようなことを受託者が行っていかなければならないのか、信託設定時に受託者の義務をリスト化するような実務も必要と考えます。また、将来において信託財産の管理において疑問が生じた場合、その疑問についての相談先があると安心です。その相談先としてふさわしいのは誰かといったことまで信託設定時に考えてあげると、将来にわたって安定的な民事信託の仕組みをつくることができると思います。

委託者と受託者の間の契約は自由です。しかし、契約が結ばれたからといって、その契約が将来にわたって有効でありつづけるのかはわかりません。その契約により不利を得る人が生じた場合、不利を受けた人と受託者との間で争いが生じることの危険性も潜んでいるのです。民事信託の活用は、今後の日本の社会にも必要なことなのですが、その活用の必要性から、制度を設計する専門家は、今後長きにわたってその信託が安定的に存在し続けられるよう、制度の設計、契約内容の吟味、受託者の役割の明確化など様々な観点から検証することが求められます。

民事信託の活用を支援する専門家のその実務において、制度設計者としての倫理感や使命感が問われていることを忘れてはいけないと、筆者は考えています。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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