vol.1 『信託は財産管理の制度』

『安』。今年一年を象徴としてこの漢字が選ばれたことは皆さまもご存知のことと思います。仕事柄、金融関連の業種において、今年一年よく使われた言葉は何かなと考えると、『信託』は上位にランキングされるのでは?と思うのです。そう言えば、『きょう、信託はじめました』とテレビCMでも流れていましたね。

●財産管理の制度
私は、信託に関するセミナーでお話しをする際、かなり大ざっぱですが、『信託は財産管理の制度』ですと、説明することがあります。セミナー受講者のうち数名の方は、このことを聞いて大きくうなずき、手元の資料にペンを走らせる方がいます。
でも、私が言うのも何ですが、これでは信託についてよくわかりませんね。一体誰が財産管理するのでしょうか?税理士や弁護士などの資格者でしょうか?信託関係の資格があってそれを取得した者だけが管理できるのでしょうか?それとも信託銀行だけが可能なのでしょうか?

●受託者
専門用語となりますが、信託において財産管理を行う者を受託者といいます(信託の関係者は下図を参照)。
信託契約

信託法第7条では、受託者の資格として、『信託は、未成年者又は成年被後見人若しくは被保佐人を受託者とすることができない』と定めています。上記に該当しなければ、信託の受託者となることができると信託法では定めているのです。自然人だけでなく法人も可能です。
一方、信託業法第2条では、『信託業とは、信託の引受けを行う営業をいう』と定めています。多数の方に信託を引受けますと営業することは、信託業に該当します。信託業を行う場合は、国より免許を得るか登録する必要があります。

●民事信託、家族の財産を信託
ますます超高齢社会となる日本では、祖父母や両親の財産管理、承継は様々な課題があります。その課題を解決する手段として信託は非常に有効です。
家族それぞれに家族の歴史や背景があり、家族の財産管理、承継は一様ではありません。そのため、家族や家族の関係する法人(一般社団法人や資産管理会社など)が受託者となり家族の状況に合わせて財産を管理する信託は、今後活用が広がっていくと考えられます。
家族の誰かが受託者となり家族の財産管理を行う信託を一般的に民事信託といいます。事業承継や不動産の資産管理、承継にもこの民事信託は大変有効です。

●健全に信託が継続するために
国に登録もせず資格も持たない家族が受託者となる民事信託では、家族の財産管理だからと甘えが生じ、不正が生じることもあるかもしれません。結果、『危ない』民事信託が存在することとなり将来の問題の種となります。資産管理、承継に有効な手段と言われる一方、現状では民事信託の活用に課題は多く、実務に活用することに躊躇する税理士も多数います。
信託銀行の信託は、その点安心感はありますが、家族の個別性を考慮した信託の設定には限界があります。また、信託の仕組みや信託財産額に応じて一定の手数料が必要です。せっかく有効な信託がこのままでは大いに活用することができず、『きょう、信託をはじめる』ことができなければ家族の資産に関する問題も解決しません。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)  石脇俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任
お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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