民事信託支援のポイント ~その1~「信託設定前」

民事信託は信託の設定のみならず設定以降の支援も必要となります。財産管理の専門家ではない家族等が受託者となる民事信託では、信託開始後の受託者への支援と信託期間中に起こりそうなことを想定した民事信託の設定が非常に重要となります。

信託設定前

高齢な親の資産管理や資産承継において民事信託を活用する事例は今後増えていきます。高齢な親の資産を年少者の家族等が受託者となり資産管理することは大変有効です。しかし信託を契約してさえしまえば、あとは問題なしという訳にはいきません。信託したことにより将来問題を生じさせてしまうこともあり、信託の設定には十分な配慮が必要です。

信託の仕組みを検討する際、実務においては、以下のことを依頼者より確認し、信託設定のための重要情報とします。①家族構成、②委託者となる方が所有する資産(信託しない資産も)とその状況、③相続税シミュレーションなどが試算されているか(相談を受ける人が税理士等の資格者でない場合、依頼者の税理士と連携することが必要です)、④登記簿(不動産)、⑤定款や株主構成(信託財産が自社株の場合)、⑥信託財産が不動産で収益物件の場合は、その不動産の管理状況、修繕実績と修繕積立の状況、賃貸借契約の内容、付保する損害保険の内容、⑦依頼者の生命保険の付保状況。

上記のデータを集め、依頼者とその家族に関するカルテを作成することが必要です。場合によっては一覧表のようなものを別途作成する必要もあります。実際に信託設定に関わっていくとそのデータ量はかなりのものとなります。そして、これらの実務を行っていくと、依頼者の準備していなかった又は気づいていなかった課題・問題点を発見することができ、信託以外の対策もあわせて検討する必要が生じてきます。その際、依頼者のライフプランニング、タックスプランニング、資産承継計画など幅広く対応する能力が求められ各専門家の連携が必要になります。

民事信託活用支援機構の専門家協議会会員は、弁護士、税理士、司法書士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、信託の実務に詳しい者など様々な専門領域を有する方々が会員となっています。そのため、会員どうしの連携も可能となります。

依頼者と信託財産に関するデータも必要ですが、依頼者以外の家族の考えもヒアリングすることを欠かすことはできません。依頼者の信託を設定するため、依頼者とのみ面談し実務を進めていくことが多いと思われますが、受託者となる家族も交えたミーティングを行うことも心掛ける必要があります。

信託開始以降は、受託者が信託財産の管理を行います。委託者が管理していた不動産を信託財産とする信託の場合、委託者がどのような作業を行ってきたかの実務を、受託者が予め知っておくことが必要です。そして受託者がそのような事務(信託財産の管理のための信託事務)を行うことが難しいようであれば、その事務については外部の専門家に委託することを検討することも必要です。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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