民事信託支援のポイント ~その4~「信託契約締結時の支援」
信託を業とするいわゆる業者の信託では、信託締結時に委託者に信託契約の内容を説明し、信託契約締結時の書面交付をしなければならないと信託業法に定めがあります(信託業法第25条、26条)。委託者保護のため、信託の目的や信託財産の管理又は処分の方法など法定事項を受託者が委託者に説明します。民事信託は、信託業法の適用外ですが、信託契約締結後、信託を正常に機能させるために、委託者と受託者が信託契約の内容を正しく理解していなければなりません。信託契約書があるため、あらためて締結時の書面を作成する必要はないのかもしれませんが(信託契約書の読み合わせだけでよいのかもしれない)、民事信託は、財産管理においては素人の家族等が受託者を務める信託です。信託契約時に委託者と受託者の両者がその内容をしっかり理解するような支援が必要となります。
支援者は、締結時書面の役割を果たす信託契約内容のまとめを作成します。信託契約後、委託者と受託者がこのまとめの書面を読み返すことで信託契約の内容を確認することができるよう表記を簡潔にし、必要事項を漏らさずに記載します。
公正証書作成の支援
信託契約書は、必ずしも公正証書とする必要はありませんが、金融機関での受託者口座の開設や受託者への債務者変更の手続きなどのために公正証書の作成が必要となるケースがあります。
その際も支援者の事前準備が欠かせません。委託者と受託者との間での契約のため、委託者と受託者が公証人に連絡し、公正証書作成の準備を進めればよいのですが、委託者と受託者はそのような手続きに全く慣れていないのが通常です。
そのため、支援者が、公証人と事前に連絡をとり、委託者と受託者の依頼のもと、公正証書作成のための準備作業を行うことが、実務では必要となります。
支援者は、法律の専門家が作成した信託契約書案を予め公証人に説明し、問題点など修正すべき点などについての指示を受け、その後、委託者・受託者と法律の専門家と連携し、信託契約書案の修正を検討します(法律の専門家が委託者・受託者の支援業務を行っている場合、その専門家が直接公証人とコンタクトをとることとなります)。
検討した結果を公証人に説明する工程をふまえ、最終的に公証人が信託契約公正証書を作成します。
信託契約締結後
信託契約が締結されたら、信託財産を受託者に移転します。信託財産が不動産なら所有権移転登記と信託の登記、未上場の株式なら株主名簿の書換え、金銭なら受託者口座を金融機関に開設し、委託者が受託者口座へ金銭を送金します。信託財産の受託者への移転が完了しなければ、受託者が信託財産を管理処分できません。
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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任
お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp
外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。
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