民事信託支援のポイント ~その5~ 「信託財産の受託者への移転」

信託財産の受託者への移転

信託財産は、委託者より受託者のもとへ移転します。受託者は、信託財産を自身の財産とは分別しして、信託契約に従って管理します。

信託の登記又は登録をすることができる財産は、信託の登記又は登録をします。登記又は登録をすることができない財産は、受託者の固有財産と外形上区分することができる状況で保管します(信託法第34条)。実務上、金銭は、信託財産を管理するための専用口座の預金で管理していくこととなります。

 

信託財産ごとの移転の実務とその支援

  • 不動産

不動産は登記が必要な信託財産です。委託者から受託者への所有権の移転とともに信託の登記を行います。信託の登記は、所有権移転登記と同時に行います。登記申請は、受託者を登記権利者、委託者を登記義務者とする共同申請です。手続きは、登記権利者と登記義務者の代理人として司法書士が担当します。

民事信託の支援者が司法書士の場合、信託に係る登記手続きは専門業務のため速やかですが、司法書士以外の者が支援者の場合、信託登記の実務経験のある司法書士と連携して信託登記等の手続きをします。手続きには司法書士の報酬が必要となりますので、予め手続きを依頼する司法書士に報酬額を確認し、委託者に伝えておかなければなりません。

信託に関する登記の登記事項は、不動産登記法に定めがあり(第59条、97条)、それに従い登記をします。第97条に規定する信託の登記の登記事項は、信託目録に記録します。目録に記録する事項は、以下の通りです。

①委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所、②受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め、③信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所、④受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所、⑤信託法185条第3項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨、⑥信託法258条第1項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨、⑦公益信託に関する法律第1条に規定する公益信託であるときは、その旨、⑧信託の目的、⑨信託財産の管理方法、⑩信託終了の事由、⑪その他の信託の条項。

信託財産の管理方法など何を信託目録に記載する又は記載しないかは、委託者や受益者の状況により異なります。信託目録の作成は、実績のある司法書士の実務力が期待されるところです。

  • 金銭

信託財産となる金銭は、受託者の財産管理の実務として、信託財産管理専用の銀行口座で管理します。この専用口座は、いわゆる信託口口座であることが望まれます。そのため、支援者は信託口口座の開設を支援しなければなりません。しかし、信託口口座について、現時点ではすべての金融機関で対応可能となっておらず、口座開設に制限があります。委託者や受託者となる者の取引金融機関で信託口口座の開設が可能であるか? 支援者は、受託者の金融機関との交渉を支援します。しかし金融機関は、口座開設の事務規定に定めのない対応は難しく、交渉しても口座開設できないことがあります。信託口口座開設に対応する金融機関情報を予め収集しておくなど支援者の努力が必要です。

 

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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