民事信託支援のポイント ~その8~ 「信託財産の修繕費用を見積る 」

マンションや商業用のビルを信託財産とする際、その不動産に関する敷金や修繕積立金を信託財産とすることは、実務において重要なポイントです。信託設定まで、委託者となる者が修繕の備えとして取得する家賃から計画的に積み立てていたのか? 預かった敷金は使わずに預金しているか? について信託を企画する者は必ずヒアリングしなければなりません。
筆者の経験によると、敷金は使わずに預金しているが、修繕積立は行っていなかったというケースは散見されます。その場合、信託期間中受託者が計画的に修繕積立できるよう、将来発生する修繕費用を信託企画者が見積もることも信託設定時の支援の項目です。
修繕費用の見積については、建築業者の問い合わせることでその計画表と必要資金の提示を受けることもできますが、本ニューズレターでは、民事信託設定における受託者の支援として、計画的な修繕積立の見積についてその手法を簡単にまとめてみたいと思います。

●修繕実績を確認する
信託設定前に委託者となる者が行った修繕の実績をヒアリングします。修繕時に委託した業者が作成した見積書や請求書の内訳などがあると把握は容易です。

●今後の修繕計画について確認する
信託財産の内容によって異なりますが、行うべき修繕項目について、信託後の予定を作成してみます。マンションを例にしてその項目を以下にあげてみると、屋根防水、床防水、外壁塗装、給排水設備、ガス設備、空調換気、電灯設備、エレベーターなどがあります。これらについて、修繕が必要となるタイミングを計画表に記し、各修繕について修繕に係る費用を予測し計画表に金額を記入します。どの位時間が経過したら修繕が必要となるかについてインターネットなどの情報を検索すると簡単に調査することができます。また、費用はかかりますが、修繕計画を作成するサービスもあるようです。
(サービスを提供する会社の例:公益財団法人マンション管理センターwww.mankan.or.jp)。
ちなみに修繕の目安としては、屋上防水は12年、給排水は 15 年、ガス管の取り替えは 30 年、空調設備は 15 年、エレベーターは修繕に 15 年、30年で取り替えといったところです。

●金融機関への返済額と家賃収入を計画表に反映する
金融機関への返済額は確定しています。一方、収入は家賃の変動や空室率などにより変動します。現在の収入がどのくらいあり、将来の収入は現在のレベルを維持できるのか? などを予測し、必要積立額を計画することが必要です。いざ修繕となり、必要資金を信託財産で賄うことができないならば、その時、資金を追加すればよい、または金融機関から借り入れればよいと考えがちですが、そのときさまざまな理由から、金銭を追加信託できないことはあります。金融機関への返済期間中であれば、金融機関が追加融資に応じてくれないことも考えられます。

将来の委託者の意思能力の減退のリスクを防ぐために信託の仕組みを導入しても、将来、信託財産の修繕を行えず、信託財産に問題が生じることになれば、信託を設定した効果は減少してしまいます。そのためにも信託設定時に信託の企画者が、受託者となる者と情報を共有して修繕計画を作成し、信託開始後には計画に従って修繕積立を行えるよう受託者を支援または監視することが必要です。
信託開始時に修繕積立金の金銭を信託しない場合、信託開始後の修繕積立の額は多額となることは必至ですので、信託開始時に修繕積立金の金銭を信託しない場合には、より注意が必要です。

 

 

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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