vol.10『金融機関と連携した民事信託のサポート』
不動産管理の信託では、信託財産となる不動産に収益があれば、その収益である金銭を管理する必要があります。未上場会社の自社株を信託財産とする場合でも、その株式に配当が生じれば、配当である金銭を管理する口座が必要です。主となる信託財産の管理には、必ずといってよいほど信託財産としての金銭の管理も必要となります。
信託財産となる金銭を、受託者の資産と分別して管理するためには、信託口口座の開設が必要です。民事信託の実務を経験したことのある方は、信託口口座の開設について苦労した経験があると思います。現状では、残念ながら、すべての金融機関で信託口口座の開設ができません。
信託を設定したいという高齢の委託者の意向のもとでは、その設定を急ぐ必要があり、信託口口座の開設に対応する金融機関を見つけ出すことができずに、やむをえず受託者個人名義(又は受託者の屋号名義)で金融機関に口座を開設したという事例を聞いたことがあります。受託者の財産管理において、その口座で信託財産を受託者の資産と分別して管理し続ければ、信託法上の分別管理の義務を果たすことができます。しかし、受託者個人名義の口座では、受託者が倒産したときは、信託財産も受託者の債権者に差し押さえられてしまいます。また、受託者が個人で、その受託者が亡くなってしまった場合、信託財産は受託者の相続財産になってしまうこともあります。受託者が倒産する又は受託者が死亡するリスクは低いかもしれませんが、信託財産を分別管理し続けるためには、万全を期す必要があります。
民事信託の設定を相談される税や法の専門家又は実務家は、受託者の財産管理の事務として、適正に信託口口座の開設を行うよう受託者に指導しなければなりません。
そのため、信託口口座開設にも応じる金融機関との情報交換は有効です。まだ数は少ないのですが、徐々に、信託銀行、地方銀行、信用金庫で信託口口座の開設を提供する金融機関が増えています。委託者の最寄りでは、まだ対応する金融機関もないかもしれませんが、地域の金融機関が対応するよう、お客様の窓口となる専門家や実務家が、日頃より民事信託に関する情報提供や相談を地域の金融機関に行っていく地道な努力も必要です。
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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任
お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp
外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。
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