民事信託支援のポイント ~その6~ 「受託者マニュアルの提示」

信託契約を締結し、信託財産を委託者より受託者に移転した後、受託者は信託終了までの間、信託契約に定めた信託事務と信託法に定められた受託者の義務を果たしていくことが求められます。これまでも何回か記してきましたが、民事信託は財産管理の専門家でない者(いわゆる素人受託者)が財産管理を行う制度です。そのため素人受託者は、信託の仕組みを検討し設定をサポートした者(以下、民事信託の企画者、といいます)の継続的な支援を必要としています。

一方、民事信託の実務では、民事信託の企画者が受託者を継続的に支援しているケースは少ないと思われます。信託を設定したらあとは受託者に任せておけばよい、と民事信託の企画者が考えているとは思えませんが、残念ながら、受託者への支援についてその実行例についてほとんど聞いたことがありません。民事信託の企画者の業務は、信託の企画と設定に加え、受託者への継続的な支援が欠かせないと筆者は考えています。

 

受託者マニュアルの提示

本稿では、筆者の受託者支援の業務について簡単に書かせていただきます。

民事信託の設定に関わらせていただいたとき、筆者は、必ず受託者に受託者マニュアルを提示するようにしています。受託者として、信託法上行わなければならないことについてチェックリストを作成します。チェックリスト記載の項目について、受託者が業務を行えないときは、外部の方に委託することをお勧めします。委託先には、委託する業務の内容についても説明します。

受託者は、何を行わなければならないのかわかっていないため、チェックリストは受託者を支援するうえで必須のアイテムとなります。受託時にすること、定期的に行うこと、不定期だがある事由が生じた場合行わなければならないことなどを項目にしてチェックリストを作成します。特に、受託者が行わなければならない受益者への報告と計算書類の作成については、外部への委託も検討します。外部への委託は委託者や受益者と長く付き合いのある税理士の方にお願いすることが多いのが現状です。

筆者のこれまでの経験から、チェックリストで行うべき項目を提示した場合、受託者がその業務の多さに辟易するようなことに出くわしたことはありません。むしろ、この範囲はしっかり責任としてその業務を果たすという心構えを持っていただくことができ、チェックリストは有効です。

 

 

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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