民事信託支援のポイント ~その9~ 「受託者の信託事務の委託」

受託者の信託事務の委託

信託法第28条には、信託事務は外部に委託することができると定められています。信託会社や信託銀行が受託者を務めるいわゆる商事信託では、信託事務を外部委託することがあります。その際、委託業務を明確にし、業務を委託する先が適切に業務できる能力を有しているか? コンプライアンス上の問題はないか? 受益者の利益を損ねることがないか(利益相反取引なども含め)? など、受託者が委託先について十分な検討を行った後、業務を委託します。
財産管理に関する事務は専門的なことが多く、信託会社・信託銀行のような財産管理の専門家でも、業務執行における専門性や効率性を求める場合、事務を外部委託します。業務を委託した受託者は、委託先の業務の状況を継続的に監督しながら、信託目的実現のため信託財産を管理していきます。
一方、民事信託では、委託者の家族等が受託者を務めるため、受託者の信託事務について、サポートが必要です。
これまでのニューズレターの連載でも常に述べていることですが、民事信託の受託者は財産管理については素人です。そのため、信託を企画し設定を支援する専門家が、必ず受託者の信託事務をサポートする仕組みを検討することが必須となります。財産管理の専門家が受託者を務める商事信託でさえ、受託者の信託事務の一部を外部委託している事実から、民事信託では信託事務の外部委託は欠かせないものと考えます。

信託財産が収益のある不動産の場合、税務・会計への業務委託が必要

最近では、収益のない自宅を信託財産とするケースも増えてきましたが、基本的に多くのケースでは、信託財産は収益のある不動産です。
受託者は、年に1度信託財産について決算を行う義務があります(信託法37条)。信託財産に収益が生じたときや費用が生じた都度、その取引について記録し、その記録をふまえ決算を作成し受益者に報告する義務があります。決算手続きは税理士・公認会計士(以下、税理士等と言います。)の専門業務です。税理士等が信託の企画に関わった場合、その税理士等は、信託開始後、信託財産に関する決算の支援を申し出ることが必要なのではと考えています。簡単な取引しか発生しない信託財産の場合であって、受託者が確実に行える場合は、受託者に税理士等が信託決算マニュアル等を作成しそれを受託者に実行してもらうことで足りるかもしれませんが、取引の多い信託財産の場合などは、長期間安定した信託を実現するためにも、受託者が税理士等へ業務委託することが必要です。受託者の事務を委託することは一定のコストも必要ですが、信託を企画し設定を支援する専門家は、その必要性を委託者と受託者に説明し、理解を得て専門家へ業務委託する信託の仕組みを作ることが必要です。
年間3万円以上の収益がある場合、信託に関する計算書(法定調書)を受託者が作成し、受託者の事務所を管轄する税務署に提出する義務があります。信託の計算書の提出時期は、毎年1月31日までとなっています。
特に信託の企画に関与し、民事信託の設定を税理士等が支援した場合、受託者の決算・法定調書の作成などの業務委託の必要性を説くことは重要と考えます。

-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

ゼイカイネットへ
https://www.zeikai.net/