民事信託支援のポイント ~その7~ 「法定調書の作成の支援」

信託の受託者は、一定の場合を除き、信託に関する法定調書の作成及び提出が必要です。

家族が受託者を務める民事信託では、いつ、どのようなときに法定調書の作成・提出が必要かを、信託設定の支援者が、あらかじめ把握し、その作成を受託者に促す、又は支援する必要があると筆者は考えています。

受託者が作成しなければならない調書は、「信託の計算書」それに伴う「信託の計算書合計表」、「信託に関する受益者別(委託者別)調書」それに伴う「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」の4つです。民事信託であっても受託者は、これらの調書を適正に提出しなければなりません。

  • 「信託の計算書」

信託の受託者は、その信託に係る受益者等別に、その信託の計算書を、税務署長に提出しなければなりません(所得税法第227条、所得税法施行規則第96条)。

受託者が信託会社等以外の家族が務める(民事信託)場合、「信託の計算書」の提出期限は毎年1月31日です。提出不要な場合があるものの、信託の計算書は必ず作成するといった心構えを受託者は持つことが必要です。

各人別の信託財産に帰せられる収益の合計額が3万円以下の場合(例えば、自宅を信託財産とするような場合)は、信託の計算書の作成・提出は不要です。

信託財産が収益不動産などで一定の収益がある場合、必ず「信託の計算書」の作成と提出が必要です。1年間の収益を12月末に締め、そのわずか1か月の間に前年1年間の信託財産の収益と費用を把握しなければならならないため、受託者は事前の準備が必要です。

信託計算書の記載事項は、確定申告書類とは異なります。書式は別途ご確認いただくとして、①信託の収益の内訳、②信託の費用の内訳、③資産及び負債の明細を記載する書式等となっていますが、信託財産の減価償却額を記入する欄はありません。そのため、受益者の所得税申告は、信託の計算書を作成しただけでは算出できません。別途、通常の税申告の作業をする必要があります。

「信託の計算書合計表」は、信託の計算書を信託財産の種類別に合計したものにより記載します。

  • 「信託に関する受益者別(委託者別)調書」

調書の作成・提出事由は①効力発生時、②受益者変更時、③信託終了時、④権利内容の変更の時の4つです。この調書は、受益者の相続税や贈与税を捕捉する意味合いで作成すると理解しておけばよいと思います。受益者に相続税や贈与税が課税されるタイミングには必ず調書の作成が必要であると理解しておくとよいでしょう。

提出は、提出事由が発生した日の属する月の翌月末日までとなっています。また、受託者の引き受けた信託について、受益者別にその信託財産を評価した価額が50万円以下の場合、提出の必要がありません。

  • 調書提出の受託者実務として

他益信託の設定や、相続等により受益者が変更となった際には「信託に関する受益者別調書」の作成と提出が必須なこと(信託財産の評価額が50万超の場合)。信託財産が収益物件である場合(年間3万円超の収益の場合)、「信託の計算書」を毎年1月31日までに提出する必要があることを受託者業務のチェックリストに載せておくとよいでしょう。

 

 

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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