vol.2 『民事信託を支援するチーム作り(1)』

お客様のニーズにすべて一人で対応することができれば、それは素晴らしいことです。スーパー専門家を目指し、読者の皆様もお客様のニーズに対応できる領域を広げるため、日々、専門知識の習得にお努めのことと思います。

●民事信託は専門家チームで対応する
一方、民事信託の支援は、そんなスーパー専門家が仕組みを作り、その運営を支援するのではなく、各領域の専門家がチームとなって対応することがよいと考えています。民事信託は、専門性を必要とする領域が多方面にわたるため、一人の専門家が全て対応することができないからです。yukidaruma
そのチーム作りができる、またはチーム作りを支援してくれる者と連携して、お客様のニーズにあった民事信託の仕組みづくりとその支援を行うことが必要です。
民事信託を活用したいと考え、積極的に勉強を重ねている読者の方は多いと思います。ぜひ、積極的に情報を取得し、お客様のニーズにあった民事信託の仕組みづくりに関与していただきたいと思います。
しかし、注意が必要です。
民事信託のセミナー講師は、一般的に民事信託の仕組みに必要なある領域の専門家ではありますが、全てを網羅したスーパー専門家ではない確率が高いと考えられます。民事信託の仕組みを作りたいと考え、その講師に相談し、その講師が、『私に任せてください。すべて万全に対応します』と、言ったらその時は注意してください。

●民事信託の支援に必要と考えられる者は?
前回、信託は『財産管理の制度』と述べました。財産を有する者(委託者)の財産を、委託者から信頼された者(受託者)が、信託契約等(注)で定めたことに従って財産の管理等を行い、信託財産(委託者が有していた財産)から得られる収益を、受託者が受益者に交付します。これが信託の基本の仕組みです。
その基本の仕組みは、主として信託契約書(信託の方法は3つありますが)で定めます。そのため民事信託の契約書の作成は、法律の専門家(弁護士や司法書士など)が担当するべきと考えます。書籍等に掲載された雛形を少しアレンジすれば対応可能とは決して考えないでください。財産を有する人の状況やニーズに合わせて財産管理の制度を作るのが信託契約書です。一般的な事例をもとにして作成された雛形では、民事信託の契約書としては、役不足です。
信託設定時、信託期間中、信託終了時において、かならず課税の問題が生じます。信託税制に詳しい税理士や公認会計士はチームメンバーに欠かせません。
また、信託財産が不動産の場合は信託登記が必要です。信託期間中に受益者が変更になったときにも手続きが必要です。信託に明るい司法書士も絶対に欠かすことはできません。
さらに、必要とされる役割があります。信託実務に詳しい実務家です。
信託は受託者による財産管理の制度です。漏れのない万全な信託契約書を作成し、それをふまえた税務についても信託関係人(委託者、受託者、受益者)が把握し、そして、委託者の有していた財産が、信託財産として委託者に移転したことの登記を済ませたので万全、と思う方が多いので注意が必要です。
信託の大まかな仕組みはこれで完成しますが、信託は実はここからが本番です。民事信託を設定した以降、財産を有していた者(委託者)の信託財産を管理するのは、財産管理のスペシャリストではない家族や家族が関係する法人です。その家族等の受託者が、信託が終了するまで、信託契約に定められた通り財産管理することができなければ、民事信託は有効ではなくなります。受託者としてやらなければならないこと、事務手続きなど信託実務に詳しい者がサポートすることで、受託者による財産管理が安定すると考えます。

●チーム作りは誰が行う?

お客様から民事信託の相談を受けたとき、チーム作りができれば最良です。日頃より人脈を構築して、優秀な専門家の方々と連携するようにしてください。
もし、そのようなチーム作りが難しいようであれば、チーム作りを支援する組織に相談することをお勧めします。
民事信託活用支援機構では、民事信託における必要な領域をカバーすることができる専門家の方々との連携を行っています。
民事信託を支援するチーム作りについては、次回にも書いていきたいと思います。

(※注)
信託は、信託契約による方法、遺言による方法、法務省令で定められた事項を公正証書等によって記載または記録する方法、で行う3つの方法があります(信託法第3条 信託の方法)

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)  石脇俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任
お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。

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