民事信託支援のポイント ~その3~ 「民事信託は素人受託者による財産管理」

民事信託を検討する際、一番重要でかつ難しい問題は受託者の選定です。委託者に信託のニーズがあっても、適任の受託者がいなければ、民事信託を実現することができません。そのため、支援者は、委託者から信託設定のための目的(信託のニーズ)や財産の状況を聴きだすとともに、親族内に受託者となりうる人がいるかを把握しなければなりません。
委託者等からの情報により、受託者候補を選定することができたら、早いタイミングでその受託者候補者を交えてミーティングを行うことが必要です。
筆者の経験から、委託者の子を受託者にしたいという委託者の意向があっても、実際にその子に会って話しを聴くと、親の資産の状況や内容についてほとんど把握していないということがよくあります。信託を検討する時点で親(委託者)の資産の状況を知らなくても、信託設定後、委託者から受託者に移転する資産について、その候補者が受託者として管理することへの心構えを持つことができれば、その候補者は、民事信託の受託者としての条件を満たせると考えます。しかし、民事信託では、受託者はあくまでも信託事務については素人です。支援者は素人受託者が行う信託事務でも十分にその民事信託が機能するよう仕組みの検討を行います。信託事務のチェックリストを予め作り、その項目を素人受託者でも実行できるよう信託事務を明確にし、定期的にかつ継続的に業務できるようにします。また、専門的な信託事務については外部に委託する仕組みとします。

信託設定前に受託者が資産状況を把握
信託設定後、受託者は、長期にわたって信託財産の管理をすることとなるため、まず、これまでの委託者の資産管理状況を把握します。例えば、信託財産が賃貸マンションなどの収益物件の場合、①登記情報の確認、②賃貸借契約状況の把握、③修繕計画、④前回の修繕の時期とその内容、⑤敷金・修繕積立金の保管状況など対象財産について把握します。
支援者は、委託者より聴きだした上記の情報を受託者が理解できるよう必要に応じて信託財産となる資産の管理状況について一覧表にまとめ受託者が理解できるようにします。

3者による信託契約書の読み合わせ
信託契約の当事者は、委託者と受託者です。両者が信託契約の内容を全て理解しなければなりません。信託会社や信託銀行等の業者が受託者となる信託(いわゆる商事信託)では、信託を引き受ける受託者が信託契約を作成します。そして、信託業法には、信託設定時に受託者が、委託者に対して信託契約の内容を説明しなければないという定めがあります。一方、民事信託では、法律の専門家が信託契約書を作成します。そのため、委託者と受託者の両者は信託契約の内容をすべて把握していないことがあります。委託者、受託者、支援者の3者で信託契約を読み合わせ、委託者と受託者が信託契約を理解できるように支援することが必要です。

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石脇俊司(いしわき しゅんじ)
一般社団法人民事信託活用支援機構理事
証券アナリスト協会検定会員、CFP、宅地建物取引主任

お問い合わせ:shunji.ishiwaki@shintaku-shien.jp

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、民事信託活用支援機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業 オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。民事信託の健全な活用とビジネスを目的に税理士、弁護士、司法書士らを会員として発足した専門協議会組織「一般社団法人民事信託活用支援機」の中心的な存在としても活躍中。民事信託の21の活用事例を紹介した「相続事業承継のための 民事信託ワークブック」(法令出版)発売中。

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